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ヤフーブログ終了で引っ越ししてきました。主にオーディオについてです。すでにオーディオ一式は断捨離で売り払ってしまいましたが、思い出のために引っ越しして残すことにしました。

NHK『人体 ミクロの大冒険』 第4回 老いと死 宿命との闘い

老いと死 宿命との闘い
http://honz.jp/articles/-/40326

■血液と免疫。

このふたつはいま、老化をもたらす原因を語るのに欠かすことができない要素である。長寿マウスの実験ふたつ(編集部注:成長を阻むことが長寿に繋がるという実験、老いたマウスと若いマウスの血を入れ替える実験)は、偶然の一致にすぎないが、血液を探れば老化の原因に出会うことができる。そして、その原因は免疫に関わっているのだ。

老化に伴う変化は、身体のあちこちで起きる。皺やシミが目立つようになる肌もそうだし、老眼が進む目も同じだ。骨も老化すると、細くなり、密度もスカスカになる。脳も同じ。小さく萎縮してしまった脳は、やがてアルツハイマー病など、老年に特徴的な病へと繫がっていく。

老化とは、長い歳月のなかで全身のあらゆるパーツが少しずつ劣化して炎症を起こし、やがて複合的な老人性の病へと発展していく、一連のプロセスのことなのだ。

じつは、血管も老化をまざまざと目撃できる場所だ。高齢者と若者の血管を比べると、前者高齢者のものは末端部分が傷んで短く縮れ、血管全体も細くなっているのがわかる。細くなった血管は、血管壁もボロボロになり、ところどころ血栓までできている。歳月を重ねた血管は、やがて動脈硬化や心筋塞を引き起こす、重大な劣化が進んでいるのだ。

ところが近年、これらの身体の変化は経年劣化によって自然に起こるものではなく、血管内に存在する犯人によって引き起こされることがわかってきた。

炎症と老いを研究する、バーミンガム大学のジャネット・ロード博士に解説をお願いしよう。

この日、ロードさんの研究室を訪れたのは、20代と60代の女性。それぞれの血液を採取し、老化の正体として注目される、ある細胞を調べるというのだ。

それが免疫細胞だ。免疫細胞は、細菌やウイルスといった外敵の侵入を感知すると直ちにそこに急行し、直接貪食したり攻撃物質を出して攻撃したりして、外敵を根絶やしにしてくれる。この瞬間も私たちの身体を守ってくれている大切なパトロール部隊だ。

しかし、歳を取ると、その免疫細胞に大きな変化が起こることがわかってきた。

20代の場合、免疫細胞のひとつ、好中球を見ると、一斉に敵に向かって元気に移動していく姿が観察できる。

ところが、60代になると、そうはいかない。同じ場所をうろうろしていて、なかなか動いてくれない。外敵に向かってまっすぐに進むこともできないのだ。この免疫細胞は、外敵の居場所を正しく見つけることができなくなり、いわば徘徊しているのである。

ロードさんは年齢の違いによる差がわかる映像を見せてくれたあと、こう述べた。

“「高齢の人たちは、免疫細胞もまた老化するのです。この免疫の働きの老化こそ、老人たちの身体で起こるさまざまな病の引き金なのです」”

■免疫細胞の老化は意外に早く訪れる。

20代では大半の免疫細胞が正常に活性化しているにも拘わらず、40代ですでにその働きは鈍くなりはじめ、70代では活発に働ける免疫細胞はほとんどいなくなっている。

■免疫細胞は20代をピークに、ゆるやかな下降の一途を辿るのだ。

動きも同じ。若い免疫細胞は燃え広がるようなすばやい反応を見せる一方で、老いた免疫細胞はまるで残り火のようにノロノロとした反応しか示すことができない。

さらに、老いた免疫細胞は、分裂する能力にも明らかな劣化が見られる。 20代では瞬く間に増殖していくが、 70代になるとグズグズとしか増殖できなくなっている。衰え具合には個人差はあるが、年齢とともに免疫があらゆる能力で衰えていくのだ。

“「歳を取ると病気に罹りやすくなったり、病が治りにくくなったりするのは免疫細胞が衰えて いるからです。働き盛りの 代ではさまざまな病気が見つかりますが、免疫から見ると当たり 前のことなのです」”

免疫細胞は自分が早々と老化するだけではない。老化したあとは、今度は自分が周りの細胞に老いをもたらす引き金になることも明らかになってきた。

その様子を捉えたのは、最新のバイオイメージング技術の数々だ。大阪大学医学系研究科の石井優博士は、体内の免疫細胞を生きたまま観察する技術を駆使して、老いた身体と同様の状態である炎症を起こした体内でさまざまな免疫細胞の姿を捉えることに世界で初めて成功した。その映像には、私たちの身体の劣化を引き起こす重大な振る舞いが映し出されていた。

血管のなかを流れる免疫細胞は正常時には、滞ることなく巡回している。ところが、老化が進行したのと等しい炎症状態の血管では、免疫細胞たちは我を失ったように血管壁にベタベタと張り付いていく。その張り付いた免疫細胞がきっかけとなり、血流そのものが滞ってしまうことも起きる。

肝臓では、さらに衝撃的な映像が撮られていた。通常の肝臓では、免疫細胞は何事もなく肝臓の細胞の周りを巡回しているにもかかわらず、炎症を起こした肝臓では免疫細胞はひとつの細胞に群がり、執拗に攻撃をつづけているのだ。その攻撃を受けている細胞は外敵ではなく、自分の一部なのだ。

老いた免疫細胞は衰えるだけでなく、敵を見分ける力を失い、暴走してしまっているのだ。歳を重ねると進んでいく身体のパーツの劣化は、単なる経年劣化だけではなく、免疫の暴走が原因だったのだ。

■石井さんは、こう総括した。

“「身体を守ってくれるはずの免疫細胞は、老化することで敵味方を判断する力さえ失い、あたかも統率を失った軍隊のように、暴走してしまうのです。しかも、その攻撃は止むことなくダラダラとつづき、私たちの身体のパーツを次第に傷つけていきます。つまり、私たちの身体の劣化は、免疫が暴走し自らを傷つけることによって引き起こされるのです。免疫の老化こそ、老いの元凶のひとつといえるでしょう」”