JBLでクラシックを聴く

ヤフーブログ終了で引っ越ししてきました。主にオーディオについてです。すでにオーディオ一式は断捨離で売り払ってしまいましたが、思い出のために引っ越しして残すことにしました。

今月のこの1曲(2006.8月)-ホルスト・組曲「惑星」 その3

 さて、「木星」は、まずアレグロ・ジョコーソで、4部に分けられたヴァイオリンのさざ波のようなアルペジオで始まる。そこにホルンが(「非常に重々しく」と表示があるが、むしろ力強く広がりを感じさせるような)シンコペーションが印象的な第1の主題を奏し出し、低音管楽器が繰り返す。さざ波は弦楽器全体と木管楽器にまで広がる。
 金管を中心に主題の断片を吹き交わしながら展開するうち、速度を落とし強奏で一瞬立ち止まって、直ちに元のテンポで、またホルンを主に行進曲風の喜ばしげな第2の主題(また荘重にとあるが、むしろ軽快な感じすらする主題)が現れる。
 これが木管などで繰り返されていくと、突然速度を落とし、リズムも3拍子に変わって、弦の重厚な和音をバックに、6本のホルンによる斉奏で、鐘が鳴り響くかのような祝典舞曲的な第3の主題となる。これが発展するうちに速度を速め、2拍子、元のテンポに戻る。
 と、急にテンポが半分になり、再び4分の3拍子となってアンダンテ・マエストーソの中間部となる。ここでもまた、ホルンが主役となり例の有名な民謡風の旋律が第4の主題として登場する。このいかにも晴れ晴れしい主題が繰り返されるうちに全管弦楽による賛歌合奏に達する。
 初めのテンポ(2拍子)に戻って、第1主題から各主題が再現し、第3主題で高まると、レント・マエストーソ、テンポを3分の1に落とし、木管と弦は非常に細かいアルペジオを奏す中、バス・トロンボーンとバス・テューバがゆったりと第4主題の引き延ばした変奏を吹かせたあと、速度を上げてコーダに突入、最後はプレストで高らかに盛り上げて終わる。


 第5曲は、「土星 老年をもたらす者」。アダージョで、一転、暗く物憂げな音楽が始まる。
 フルートとハープが拍節感の希薄な単調でうつろな和音を繰り返していく。テンポが速まり、リズムが低弦のピッチカートに変わると、トロンボーンが明るさを帯びたゆったりとした行進曲風のコラール主題を吹奏し、木管や弦楽器に広がっていく。
 元のテンポに帰ると、フルートのまるで葬送のような重々しい足取りの行進となる。これが厚みを増していって、金管や鐘による強奏となるが、やがて音量を減じていく。
 アンダンテ2分の3拍子に変わり、ハープやフルートが静かなアルペジオを奏で、音型を次第に細かくしていく中で、音楽はすべてを成就した満足感を感じさせるようなおおらかさも滲ませる。弦が非常に動きの少ない旋律を奏し、和音を長々と引き延ばしながら、消えるように終わる。


 第6曲「天王星 魔術師」は、アレグロ金管による呪文のような強奏に続き、ファゴットがスタッカートで、デュカの「魔法使いの弟子」を思わせるような、ちょっと剽げたような旋律を吹き始め、楽器を増やしていく。木琴がひとしきり加わったあと、ファゴットと弦のピチカートでスタッカートな性格の軽快な主題が奏される。
 やがて、さらに元気で楽しげにレガートな旋律がホルンに現れ、他の楽器も巻き込んで高まってから、急に音量を落とす。そこで、再び冒頭の呪文が響くと、ティンパニがドンガラ景気を付け、テューバが調子の良い行進曲調の新しい主題を吹き出す。これが金管を中心に盛り上がって、カーニバルのパレードよろしく賑やかに進んでいく。
 陽気な行進が、その頂点でオルガンの強烈なグリッサンドでブレーキをかけられると、一転、急に速度をレントに落として神秘的なハープの爪弾きを聴かせ、またアレグロでのおどけた部分を経たあと、最後はラルゴのコーダとなって、強烈な不協和音から次第に力を減じて、最後はやはり消えるように終わる。


 最後の第7曲は、「海王星 神秘主義者」。
 この曲では、女声6部合唱によるヴォカリーズ(歌詞のない母音による歌唱)が加わるが、スコアの注には、「合唱は隣接する部屋に置かれ、そのドアは、最後の小節でゆっくりと閉じられるまで開けておく。合唱や合唱指揮者、部屋のドアは聴衆から見えないほうがよい。」と書かれている。
 また、オーケストラについても、「全体にずっとピアニッシモで演奏する。」とされています。

 曲はアンダンテ、静かなフルートによる神秘的な旋律で始まるが、その後しばらくはあまり旋律らしい旋律はなく、ハープやチェレスタを中心にアルペジオがずっと続く。
 やがて、女声合唱が静かに入ってきて、後半部となる。伴奏はハープ、チェレスタ、フルートなどが中心で、女声合唱はあまり変化のない似たようなフレーズを繰り返して、まことに天国的な不思議な音楽がひたすら続いていくのです。
 最後の小節は、小節線がリピート線で挟まれており、ディミヌエンドしながら何度も繰り返される。この箇所には「この小節は、音が聞こえなくなるまで繰り返す。」と注記されています。この曲の終わりは、本当に虚空に消えるよう。いつどこで終わったのかわからないくらいです。



 この作品のCDでは、やはり何と言っても英国系の指揮者、オケによるものが多いようです。
 私の手元にあるのも、ほとんどが英国のオケ又は英国人指揮者によるものです。今回はその英国系4種をご紹介します。


 まずは、エイドリアン・ボールト指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(+ジョフリー・ミッチェル合唱団)による1978年の録音(EMI)。
 ボールトは、1889年生まれ、1983年に亡くなった英国指揮界の長老的存在として尊敬を集めた指揮者でした。19世紀ドイツの名指揮者ニキシュに師事し、帰国後はエルガーやヴォーン=ウィリアムズ、ホルストらの作品を初演するなど英国近代音楽の隆盛期を支えたのです。
 この曲の初演者でもあり、「惑星」の録音盤も生涯に5種ほど残しているそうですが、これはその最後のもの。私がこの曲を初めて聴いたCDです。
 ボールトは器用なタイプではありませんが、小細工を弄さず、けれんみのない堂々とした演奏解釈を身上としています。この曲については、やや速めの淡々とした演奏ながら、初演者として楽曲を隅々まで手の内に入れた、安心して聴くことのできる演奏です。この曲のCDではまず指を折るべき名盤といえましょう。
 録音もアナログ期の最後期のもので、いまでも十分通用する音質です。


 次は、アンドリュー・デイヴィスがBBC交響楽団(+同響合唱団)を指揮した1993年録音のCD(TELDEC)。これ以降はデジタル録音。
 A.デイヴィスは、ロンドン名物プロムスの常連指揮者ですが、単なる元気でいけいけだけの指揮者ではないようです。特に個性があるとかスケールが大きいというわけではありませんが、どんなレパートリーでも一定の水準以上のできで注文に応じられる手堅さと器用さを持っているように思います。
 この曲の演奏でも、万人向けの「惑星」と言えるものとなっていますが、だからと言ってつまらない演奏だということではなく、適度にメリハリがあり、つぼは押さえつつ、柔軟で、どの曲にも出来不出来のない演奏を行っています。難を言えばこの人ならではという強烈な個性を感じさせるというタイプではないということでしょうか。
 次のヒューズ盤ともにワーナーのapexというシリーズの中の1枚で、比較的新しい録音でありながら、価格が安い(特に輸入盤)のはありがたいところです。
 ホルストの「タピオラ」とも言われる晩年の作「エグドン・ヒース」がカップリングされています。
 

 3つ目は、オーウェン・アーウェル・ヒューズ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(+ケンブリッジ・シンガーズ)による2004年録音盤(Warner)です。
 この人については、CDのブックレットでも詳しい情報が得られず、生年もわからないのですが、ラトルよりも若干若い世代の指揮者かとも思われます。
 なお、このCDには、コリン・マシューズ作曲の「冥王星」と、ホルストの「サマセット狂詩曲」がカップリングされていて、「冥王星」を含む初の廉価版による録音などと書かれていました。
 私がこの盤を購入したのも、実は「冥王星」付きに惹かれたためでした。しかし、この演奏は、決して安かろう悪かろうの類ではなく、解釈の深さやスケールはともかく、メリハリもあって各曲の描き分けも悪くなく、わかりやすく聴きやすいものにはなっている(多少軽量級?)と思います。録音も良く、ともあれ「惑星」を聴いてみたいという人には十分お薦めできるものと思います。


 最後は、最新盤、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(+ベルリン放送合唱団)の2006年3月のライヴ録音(EMI)。
 ラトル/ベルリンの「惑星」という先入観で聴き始めたのですが、意外におとなしいというか、落ち着いた感じのする演奏です。
 管も弦も超一流のベルリン・フィルという世界の名器による演奏は、さすがにライヴにもかかわらず全く破綻もなく、上質のオーケストラ音楽を楽しませてくれますが。金管の咆吼する部分でも優雅な感じがするくらいです。優雅?ヴィーンでなくベルリンなのに。このあたりがラトルの意図なのかしらん。正直もっとベルリン・フィルらしい豪華でキラキラするような「惑星」を期待していたのですが。そのせいか、派手な「火星」などより、むしろ「金星」や「海王星」など静かな曲が印象に残る。
 実際には速い曲はハイテンポで、緩徐な曲はじっくりとと、緩急は付けられいるようなので、おとなしい印象は、このレーベルらしいオフマイク気味でやや録音の音量レベルが低いせいもあるのかもしれませんが。
 これは、2枚組のCDで、マシューズの「冥王星」のほか、新たにラトルにより委嘱された4人の現代作曲家による小惑星や宇宙を題材にした新作初演がカップリングされています。


 このほかには、2種あるアンドレ・プレヴィン盤が評判がよいようです。また、かつて、英国以外でこの曲を普及させた功績のあるものとして、カラヤン盤(これも2種ある)もあります。いずれも未聴なので、紹介はできませんでしたが。



 なお、たびたび触れているコリン・マシューズの「冥王星」について、一言。
 作曲家のマシューズは、ホルストの愛娘でその作品の校訂や整理に力のあったイモージェンとも親交があり、ともにホルストの楽譜の校訂や出版に協力した人のようです。
 この新曲は、ケント・ナガノとハレ管弦楽団の委嘱により2000年に作曲、初演されました。マシューズ自身は、「惑星」の続きとしてではなく、ひとつの付録として考えたというようなことを言っています。
 気分的には似通ったものを出そうとしていることは感じられますが、20世紀初頭に作曲され、決して前衛的な作曲家ではなかったホルストによる原組曲と並べると、やはりその現代的な音楽語法に違和感はあります。ラトル盤に登場する宇宙連作にも言えますが、所詮ホルストの「惑星」は、「宇宙」や「天体」そのものを描こうとしてのではなかったのだという事実に行き着くのかもしれません。
 ホルスト自身は、生前のうちに冥王星発見に立ち会っているにもかかわらず、「惑星」に新たな曲を付け足そうとは考えなかったという事実にも。



 人生や世界への深い思索や精神性を音楽に求めるのにはあまり向きませんが、7つの曲それぞれに個性があり、変化に富み、平易な語法を用いながら斬新でセンスの良い、まさに音楽を楽しむひとときをもたらす者。「惑星」は本来の意味で第一級のエンタテイメントとしての音楽作品となっています。
 英国音楽なんか面白くないと疑り深いそこのあなた、お薦めですヨ。

 というわけで、今回は、惑星をめぐるホットな話題から、ホルスト組曲「惑星」を取り上げてみました。


今回もおつきあいいただき、ありがとうございました。
ではまた。


                             恐々謹言