JBLでクラシックを聴く

ヤフーブログ終了で引っ越ししてきました。主にオーディオについてです。すでにオーディオ一式は断捨離で売り払ってしまいましたが、思い出のために引っ越しして残すことにしました。

今月のこの1曲(2006.8月)-ホルスト・組曲「惑星」 その2

 組曲「惑星」作品32は、第一次世界大戦勃発の直前1914年5月に作曲に着手し、1917年にはほぼ完成していたとされています。
 その第1曲「火星」について、ホルストは、大戦の勃発とは無関係だと言っていますが、初演を聴いた聴衆は、その不気味で荒々しく戦闘的な音楽に世界大戦の予感を聴き取り衝撃を受けたと言われています。組曲は、こうした時代背景の中で作曲されたのです。
 初演は、1918年9月29日に、友人の作曲家ヘンリー・バルフォア・ガーディナー主催の私的な非公開の演奏会で、エイドリアン・ボールトの指揮で行われました。その後、5曲ないし3曲の公開演奏の後、全曲の公開演奏は1920年11月。

 組曲「惑星」は、「惑星-大オーケストラのための組曲」というのが正式な曲名で、実際きわめて大きな編成のオーケストラのために書かれています。
 すなわち、木管楽器:フルート4(うち2本はピッコロと、1本はバス・フルートと持ち替え)、オーボエ3(1はバス・オーボエ持ち替え)、イングリッシュホルン1、クラリネット3、バス・クラリネット1、ファゴット3、コントラファゴット1、金管楽器:ホルン6、トランペット4、テナー・トロンボーン2、バス・トロンボーン1、テナー・テューバ1、バス・テューバ1、打楽器:ティンパニ6、大太鼓、小太鼓、シンバル、鐘、トライアングル、タンブリン、グロッケンシュピール、木琴、タムタム各1、弦楽器5部(ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に、ハープ2、チェレスタ1、オルガンというものです。(さらに、終曲には女声6部合唱が加わる。)
 すでに、世にはマーラーやR.シュトラウスの例があったとは言え、かなりの大編成であることは確かです。


 また、この組曲、各曲に惑星名の標題が付いていますが、先にも触れたように、当時ホルスト占星術に凝っていて、あくまで占星術的な意味が着想のきっかけであり、その中には標題音楽は全くないと、作曲家自身が述べています。(もっとも、当時各惑星の探査などは遠い未来の話で、各惑星を標題的に描くなど到底不可能でしたが。)そして、各曲のサブタイトルを広義に解釈してもらえれば十分だとも言っています。
 そういう意味では、よくこの曲のCDジャケットに描かれているような火星や土星といった天体そのものを音楽で描いたものではなく、「・・・する者」というサブタイトルから連想される気分や性格といったものをイメージとして音楽化したものとして聴くべきなのでしょう。


 第1曲は、「火星 戦争をもたらす者」と名付けられている。
 アレグロ。まず、初めは弱く、ティンパニ、ハープ及び弦(コル・レーニョ奏法=弓の背側で弦を叩く)によるダダダ・ダン・ダン・ダダ・ダンというリズムが打ち鳴らされて始まります。執拗に繰り返されるこのリズムは、オスティナートとしてこの開始の曲を支配します。これをバックに低音管楽器が和音を伸ばすような暗い主題を吹き始め、楽器を増やしてフォルティシッシモに高まると、冒頭からのリズムも威嚇するような猛々しさで吹奏されます。
 やがて、ホルンに波打つような付点リズムを持った重々しくも力強い第2の主題が現れ、重武装した軍団が次々展開するように次第に力を増していきます。
 中間部ではやや明るくなり、ホルンやトランペットを中心に進軍ラッパのような新しい主題が活躍します。
 再び冒頭のリズムと第2の主題が戻ってきて頂点に達しますが、急に暗く沈むかと見えて、金管楽器が砲撃するような威嚇的なリズムを断続的に強奏し、最後は崩れるような轟音で終わる。


 第2曲は「金星 平和をもたらす者」。前曲とは対照的に、静かで平安な、きわめて美しい楽曲となっている。全7曲中、最も優雅で耽美的な曲。
 まず、アダージョの部分では、ホルンが平和な上昇音階的な主題を吹き、木管が下降音型で応える。やがてフルートやハープが美しい和音をかき鳴らすうちに、ホルンと木管の応答が再現し、チェロからヴィオラに静かに湧き上がるような弦の調べをヴァイオリンが引き継ぐと、ヴァイオリンのソロが夢見るような美しい旋律を奏で出す。木管とホルンがシンコペーションでたゆたうようなリズムを刻んでいく。
 オーボエの甘い主題に先導され、中間のラルゴの部分に入る。木管とハープがやはり静かなリズムを刻んでいる。弦に動きが出て、チェロのソロがオーボエの主題を模倣すると、再びアダージョ
 さらに、アンダンテと速度を変化させながら、美の女神ヴィーナスの名にふさわしく美しい音楽が続いていく。最後は、柔らかなフルートの音色とチェレスタの透明で煌めくようなアルペジオが溶け合いながら消えていくように終わる。

 第3曲「水星 翼のある使者」は、その名のとおり翔るようなヴィヴァーチェ、無窮動的な性格の一種のスケルツォと考えられます。
 ファゴットとチェロに現れた、めまぐるしく旋回し羽毛が舞い上がるような動機がさまざまな楽器に波及していって、一息入るかと思うと、すぐに、楽しく妖精が跳ねながら下降してくるような主題を、まずチェレスタ、次いでオーボエイングリッシュホルンが奏し出します。
 やがてこれが弦の刻みに落ち着くと、5小節ばかり4分の2拍子に変わり、再び8分の6拍子に戻ると中間部となり、ソロ・ヴァイオリンが控えめながら軽快に流れるような旋律を出し、さまざまな楽器が受け渡し繰り返していきます。
 再び旋回し舞い上がるような動機が現れ、しばし無窮運動を繰り広げたあと、チェレスタが下降主題を再現、中間部の主題も顔を出し、最後は旋風に舞い上がった羽毛が静かに落ちてきて、中空でぽっと消えたように終わる。


 第4曲が、前述のジュピター。「木星 快楽をもたらす者」で、全曲中で最も有名な曲。
 たしかに堂々として喜ばしい旋律に溢れ、親しみやすい音楽(ポップスにも賛歌にもなる)で、かつ寸分の弛緩もないゴージャスで愉快な気分になれる楽曲となっている。これと言って新奇な楽器も特別な技巧も何もないのだけれど。見事です。
 その中間部に出てくる有名なメロディには愛国的な歌詞が付され、賛歌「I Vow to My Country(私は祖国に誓う)」となり、故ダイアナ妃の葬儀の折にも歌われたと言う。(最近、平原綾香という歌手が、このメロディに日本語の歌詞を付けてヒットしたJupiterという歌もある、らしい。と言うのは未聴のため。)