JBLでクラシックを聴く

ヤフーブログ終了で引っ越ししてきました。主にオーディオについてです。すでにオーディオ一式は断捨離で売り払ってしまいましたが、思い出のために引っ越しして残すことにしました。

今月のこの1曲(2007.3月)-テレマン・パリ四重奏曲集 その2

 「パリ四重奏曲」は、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ又はチェロとクラヴサンチェンバロ)による四重奏曲です。
 全体は6曲からなり、各曲はプレリュードやそれに続く舞曲風、性格小品的な楽曲6曲(第3番のみ7曲)で構成されるフランス風組曲の形式で作られています。(外観はフランス組曲ですが、プレリュードをはじめとする各曲の中では協奏曲的な扱いや変奏などイタリアの様式がふんだんに盛り込まれています。)

 ここには、バロックと言うよりもロココ様式と呼びたい優雅で色彩的な18世紀前半の室内楽の頂点があるような気がします。
 それは、やがてこの世紀の後半に主流となる弦楽四重奏曲の世界とは全く異なるもので、雅な時代の室内楽の世界を聴かせてくれます。

 6曲のうち半数が短調作品ですが、この時代は短調であっても決して暗くはならず、長調作品はもとより、そのすべてがテレマンらしく深刻なところなど全く感じさせない心地よい音楽となっています。
 また、テレマンの音楽は過度に対位法的な手法を用いず、むしろ和声的で新鮮で、聴く人、演奏する人を楽しませるエンターテインメントな性格が、当時にあって人気を博した理由でもあったのでしょう。(こうしたある意味楽天的、娯楽的な性格が、逆に深みがないとして、今日テレマンがバッハより低く見られている一因でもあるのですが。しかし、エンターテインメントとしての音楽として極上のものだとは思います。)


 6曲は、統一された趣味の中でそれぞれに個性的で、そのいずれもが洗練された趣味と典雅な響きで愉悦に満ちた音楽を聴くひとときをもたらしてくれます。

 第1番はニ長調、最も快活でさわやかな印象を与え、イタリア風コンチェルトを思わせます。開始のプレリュードからして、まさにヴィヴァルディを聴くようであり、しかもより上品な雰囲気に溢れています。

 第2番はイ短調で、メランコリックな(決して深刻な暗さではない)味わいを秘めています。この曲だけ開始曲がプレリュードでなく、冒頭チェンバロがかき鳴らす和音はバッハを思わせますが、すぐにラテン的なフルートの旋律が続きます。

 また、第3番ト長調のみは7曲で構成されていて、澄明な色彩を感じさせる曲で、ロココ風の優美で雅やかな情感に満ちています。不思議な明るさを感じさせるプレリュードも良いですが、私は第5曲モデレ(穏やかに)が特に気に入っています。その中間部、ヴィオラ・ダ・ガンバのピチカートを伴奏にフルートとヴァイオリンが歌い交わす箇所などは本当に美しい。

 ヴィオラ・ダ・ガンバが活躍するプレリュードで始まる第4番は、ロ短調という調性のわりにはあまり暗さは感じさせず、他の楽章でも低声部に存在感があるためか、全体に落ち着いた色調を持っているような気がします。

 第5番イ長調は、全体に伸びやかで穏やかな曲想が支配していて、田園的、牧歌的な性格を持っているように思います。ここでは、テンポの速い曲にも、なんとなしにくつろいだ雰囲気が感じられます。

 第6番ホ短調は、唯一フランス式序曲を曲頭に持ち、儀式張った荘重な雰囲気で始まります。もっともじきにイタリア風の軽快で名人技的な音楽も出てきますが。何と言ってもこの曲の最大の聴きものは、この曲だけでなく曲集全体を締めくくるシャコンヌでしょう。

 今月の「この1曲」のはずが、6曲の曲集となってしまいましたが、これはどの曲にもその曲の良さがあり、なかなか1曲に絞れなかったためです。あえて言えば、現在の私の好みは第3番に傾いていますが、第1番も劣らず好きですし、あとは皆さん自身が実際に聴いて、6曲の中のこの1曲を選んでいただければと思います。



 バッハやモーツァルトなどと違って、パリ四重奏曲のCDはまだそれほど多くはありません。

 私の手元にあるのもまだ2種のみですが、まずは、日本の誇る古楽奏者たちによる録音から(DENON、1992年録音)。フルート・トラヴェルソ有田正広、ヴァイオリンの寺神戸亮ヴィオラ・ダ・ガンバの上村かおりに、フランスのチェンバリストクリストフ・ルセが加わった4人による演奏です。
 これは、現在クレスト1000という廉価盤シリーズに2枚組で出ており、最も入手しやすく、かつ非常に優れた演奏です。パリのコンセルヴァトワールで行われたデジタル録音で音も良い。
 ここで、有田ら4人は、緊密な中にもまろやかで温かみのある演奏を繰り広げています。


 もう一つは、バルトルド(Fl.)、シギスヴァルト(Vn.)、ヴィーラント(Vdg.)のクイケン兄弟と、グスタフ・レオンハルト(Cemb.)による演奏です(SONY、1997年録音)。
 こちらは、ハンブルクで作曲された「クァドリ」も含む12曲を収めた3枚組で出ています(これも国内盤。輸入盤は見つからず)。
 これは、すばらしく均質で透明感のある演奏で、4つの楽器が融けあって、文字どおりの精妙なアンサンブルで、極上のテレマンを聴かせてくれます。


 実はもう1種、フランス・ブリュッヘン(Fl.)、ヤープ・シュレーダー(Vn.)、アンナー・ビルスマ(Vc.)、レオンハルト(Cemb.)による往年の名演奏(と言っても60年代)のCDを注文していた(この曲でのヴィオラ・ダ・ガンバ又はチェロという指定楽器について、それぞれの楽器用に別々のパート譜が用意されているので、チェロ版も聴いてみたかった)のですが、現在入手困難とかで入荷が遅れていて、間に合わず、これは未聴です。
 でも、上記2種のセットを聴ければ、現時点でのこの曲集の最上の演奏を楽しむことができると思います。


 ということで、今月は3月14日生まれのテレマンの作品から、パリ四重奏曲をご紹介しました。春の宵に相応しい風雅な「この1曲」(6曲)です。



今回もおつきあいいただき、ありがとうございました。

 なお、この間、能登半島周辺で大きな地震がありました。震災に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げたいと思います。


それでは、また。


                             恐々謹言

                    樹公庵 日々