JBLでクラシックを聴く

ヤフーブログ終了で引っ越ししてきました。主にオーディオについてです。すでにオーディオ一式は断捨離で売り払ってしまいましたが、思い出のために引っ越しして残すことにしました。

今月のこの1曲(2005.6月)メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」 その1

みなさま

 また梅雨の季節がやってきましたが、いかがお過ごしですか。雨の日が続いて鬱陶しい時期ではありますが、一方で木や草などの植物、小鳥や虫など、この列島に生きとし生けるものにとってはこれもなくてはならない大切な季節なのでしょう。


 さて、6月といえば夏至の月でもあります。ほんとうに日が長くなったなと感じるこの頃です。
 実際の夏至は年によって変動があるものの現在はおおむね6月21日から22日頃ですが、英国の夏至祭は6月24日に祝われているようです。その前夜に設定されているのが、ご存知シェイクスピアの「真夏の夜の夢」(A Midsummer Night's
Dream)です。(もっとも、この戯曲中での人間界の「とき」の設定は五月祭(5月1日)前後とも読めるので、5月の人と夏至前夜の妖精たちとの時空の交錯ということにもなるのだが。)

 ともかく、ここでの「ミッドサマー」とは暑い盛りということではなくて、夏至祭にちなんだ表現なのです。(夏至祭の前夜には妖精や妖怪の類が現れいたずらをするという伝承があり、この物語はそれにちなんでいる。)
 これは、妖精の王オベロンと妃ティタニアとの諍いに端を発した惚れ薬の魔法に、妖精パックが狂言回しとなって、二組の恋人たちとお間抜けな職人たちが巻き込まれた騒動の挙げ句、妖精王夫妻の和解、アテネの公爵とアマゾネスの女王に、若い恋人たちも加えた三組の結婚の祝典でハッピーエンドとなる愉快で楽しい有名なお話です。

 この喜劇は、作曲家の創作意欲も刺激したようで、古くはイギリス・バロック期の大作曲家ヘンリー・パーセルの歌劇「妖精の女王」があり、ドイツ・ロマン派オペラの創始者とも言うべきウェーバーにも歌劇「オベロン」があります。また20世紀の英国を代表する作曲家ブリテンにも、この劇によるオペラがあるようです。きっとこのほかにも沢山の音楽があるのかもしれません。(ただし、パーセルウェーバーの曲は、シェイクスピアの原作そのものに基づくものではない。)

 しかし、「真夏の夜の夢」の音楽といえば、何といっても最も有名なのは、メンデルスゾーン作曲の劇付随音楽でしょう。
 この中には、有名な結婚行進曲をはじめ日頃クラシックを聴かない人たちにも馴染み深い音楽やテレビのCMやBGMで必ず耳にしたことのある魅力的な音楽が詰まっています。



 フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディは、姓が長いため単にメンデルスゾーンと表記されることが普通なので、ここでもそれに従います。(正式には、名前も長くヤコブ・ルートヴィッヒ・フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディというらしい。)
 メンデルスゾーンは、1809年生まれで47年にわずか38歳で亡くなってしまいます。メンデルスゾーンというと、有名な哲学者の祖父モーゼスを持つ家系、富裕な銀行家の家庭に育ち、という恵まれた生い立ちで、少年時代からゲーテヘーゲルフンボルトといった当時のドイツの錚々たる文化人に接し、音楽家としての才能を発揮することのできた幸福な人生を送ったとされています。(ちなみにモーツァルトの遺品蔵書中にもモーゼス・メンデルスゾーンの著書が出てきます。)

 たしかに貧困や世間の無理解とに悩まされた作曲家の多い中で、メンデルスゾーンは恵まれていたとは言えるでしょうが、他方、キリスト教社会の中で改宗ユダヤ人としての人知れぬ苦労もあったようです。(姓の後半バルトルディは父アブラハムキリスト教に改宗した際に加えられたもの。)
 ナチス時代には、メンデルスゾーンマイアベーアマーラーとともにユダヤ人作曲家の3Mとして演奏が禁じられていました。カラヤンベームに彼の曲の録音が少ないのはその名残かなどといううがった説もありますが、真偽ははて?。それにしてもドイツ音楽の神聖にして侵すべからざる?3Bのトップ、大バッハマタイ受難曲の歴史的蘇演をなしとげ、その再評価を導いた恩人は他ならぬメンデルスゾーンなのにねぇ。恩知らずとはこのことか。(私は、マイアベーアを外してモーツァルトを加えた新3Mとしたい。そして両端の二人にあやかってメンデルスゾーンも再び今日の人気作曲家となってほしいものですね。)


 私をクラシックに目覚めさせてくれた恩師K先生は教科書に載っていたヴァイオリン協奏曲のほか、序曲「フィンガルの洞窟」も聴かせてくれ、メンデルスゾーンは早くから親しい作曲家であったのですが、実は、その後ひととおり彼の代表的な交響曲などを聴いたものの、次第に遠ざかってしまいました。いつしか、その作風が少し物足りなく感じるようになっていたのです。
 しかし、近年、再びメンデルスゾーンの音楽が良いなぁと感じられるようになってきました。
 メンデルスゾーンの音楽は、古典的なフォルムに穏やかなロマンティシズムを吹き込んだものとでも言えましょうか。若い頃は、その穏健さが物足りなくも感じたのですが、いまはまた、その美しさ、心地よさが素直に良いと思えるようになったのです。

 メンデルスゾーンの作品については、以前はあまり聴かれなかった作曲家が聴かれるようになったのと反比例して、オーケストラコンサート等でのその演奏頻度は、相対的に減じているように感じられます。それでなくても、ヴァイオリン協奏曲と、「スコットランド」と「イタリア」という有名な2曲の交響曲、それに「真夏の夜の夢」と「フィンガルの洞窟」の序曲くらいが繰り返し演奏され、他の曲はあまり演奏されてこなかった、この作曲家のわが国での受容はもともと低調だったのかもしれません。
 しかし、これまでは八重奏曲やピアノ三重奏曲の一部といった以外はあまり顧みられることのなかったメンデルスゾーン室内楽分野の録音で、最近ちょっとした異変が生じており、彼の弦楽四重奏曲の新譜が相次いでいるのが目をひきます。これが、新たなメンデルスゾーン復興の兆しなのかどうか、まだ即断はできませんが。

 先日も、コンサートで「イタリア」交響曲を聴いた、職場の親しい先輩のOさんが、(最近巷で見かける「さわりで覚えるクラシック」本をもじって)この曲は全編「さわり」をはれる曲ではと言ってましたが、そのとおりだと思います。

 さらに真のメンデルスゾーンルネサンスを起こすには、彼の声楽作品、特に我々に馴染みにくい宗教音楽の大作が聴きやすい形で出てくることが必要だと考えるのですが、どうしてもこの分野は歌詞(言語)の問題があって、オペラなどもそうですが、歌詞対訳付きのCDがほしいところです。これだけクラシック輸入盤市場があるのに、なぜ、ユニバーサルなどの大手ですら、日本語訳を標準装備してくれないのかしら。まして国内各社の努力不足には...。輸入盤と同じ仕様で値段ばかり高いのでは誰も振り向かない。廉価で歌詞対訳の付いた盤を出すくらいでないといつまでたっても国内盤は売れないでしょうにね。